「この店、どう見てもブロンコビリーでは……?」
漫画を読んでいて、そんな「気づき」をした人も少なくないのではないだろうか。
集英社の漫画アプリ「少年ジャンプ+」で毎週火曜日に配信されている『限界OL霧切ギリ子』。その連載100話を記念し、愛知県名古屋市に本社を置くステーキ・ハンバーグレストラン「BRONCO BILLY(ブロンコビリー)」とのコラボレー ションが、2026年9月1日からスタートした。
今回の企画で特に注目したいのが、東京都足立区にあるブロンコビリー北綾瀬店だ。期間限定で店舗の看板などを、漫画に登場する架空のステーキハウス「BRONCO BOBBY(ブロンコボビー)」仕様に変更。まるで漫画の世界が、そのまま現実に現れたかのような空間をつくり出した。
足立区でものづくり・地域ビジネスを応援する「コミュビズあだち」では、この北綾瀬発のコラボレーションについて、株式会社ブロンコビリーの営業本部マーケティング担当上田さん(以下、上田さん)に取材する機会をいただいた。なぜこの企画が生まれ、なぜ北綾瀬が選ばれたのか。ファンを動かすIP(知的財産)コラボの舞台裏を伺った。
1.「漫画×飲食店」ではない。現実の店舗が漫画の世界になった
一般的なIPコラボといえば、キャラクターを商品やポスターに登場させるケースが多い。しかし今回のブロンコビリーの企画は、少し発想が違う。作中に登場した架空の店「BRONCO BOBBY(ブロンコボビー)」を、現実の店舗にそのまま出現させたのだ。
そもそもの発端は、上田さんによれば約1年前にさかのぼる。
「もともとちょうど1年くらい前に、少年ジャンプ+というアプリで毎週火曜日に配信されている『限界OL霧切ギリ子』という漫画の作中に、33話と34話、51話と84話で、『ブロンコボビー』という名前のステーキハウス・ハンバーグレストランが登場しました。読者の方から『ブロンコボビーと書いてあるけれど、ブロンコビ リーのことなのではないか』と話題になり、実際に来店される読者の方も多くいらっしゃいました。ブロンコビリーをもともと知らず、この漫画を通して初めて知ったという方もたくさんいらっしゃいました。」
作品の中のお話が、読者を実店舗へと向かわせていた。「キャラクターを商品に載せる」のではなく、「作品の世界そのものが先に現実と地続きになっていた」というのが、今回のコラボの出発点だった。

2.ファンの反響から、正式コラボへ
読者の反響は、SNSを通じてブロンコビリー側にも届いていたという。
「実際にXでは話題になっていましたし、店舗でも『漫画を持ってくるお客さんがいる』という話を聞いていました。いろいろなところから、少しずつ話題になっているという声を聞いていた形になります」
こうした反響を受け、これまでアニメや漫画とのIPコラボの実績がなかった同社から、集英社側へ声掛けを行ったのが今回のコラボの経緯だ。
IPコラボとは
漫画・アニメ・ゲームなどの知的財産(Intellectual Property)を活用し、企業の商品・サービスと結びつけるマーケティング手法。キャラクターを商品パッケージに使う単純な販促から、世界観そのものを店舗や体験に落とし込む形まで幅が広い。
企画を進めるにあたって、集英社・作者ミートスパ土本先生の協力があった。
「ブロンコボビー回を4回も描いてくださったことへのお礼も込めて、『連載100話お祝いキャンペーン』と題し、キャンペーンを企画いたしました。企画実現には集英社さま・ミートスパ先生のご協力もあり、北綾瀬店のブロンコボビー化・プレゼントキャンペーン、3巻の帯にキャンペーン情報掲載、ブロンコビリー特別番外編公開など、ファンに喜んでいただける企画が実現しました。」
企業がゼロから物語をつくったのではなく、作品とファンがすでにつくっていた「つながり」を、企業側が正式なコラボとして育てていった。ここに、今回の企画の構造がある。
3.「SNS投稿を見る」から「現地へ行く」へ
キャンペーン開始後の反響は、社内の想定を超えるものだったという。
「想像の何倍もの反響をいただきました。9月1日がキャンペーンのスタート日だったのですが、8月28日の 19時に、ギリ子さんのシルエットだけにした、匂わせティザーを出しました。広告を出さず、オーガニックの投稿だけで217万インプレッション(9月30日時点)に達しました」
さらに、初日の店舗の様子について、上田さんはこう振り返る。
「9月1日、いわゆる100話が午前0時に公開され、同じタイミングでハッシュタグキャンペーンを告知しました。同日12時には、北綾瀬店でアクリルスタンドとステッカーを、全店舗でステッカーをプレゼントすると告知しました。来店特典については当日の告知だったにもかかわらず、その日のうちになくなりました。200人以上の方が、当日発表にもかかわらず北綾瀬店に集結したということで、ファンの熱量に圧倒されました。」

「SNS投稿を見た」だけの人が、実際に店舗へ足を運ぶ「体験する人」に変わる。この転換が、当日1日で起きていたことになる。
この発信は、既存ファンだけを狙ったものではなかった。
「弊社は愛知県名古屋市で1978年に創業しました。創業の地である愛知県を中心に、東海ではかなり認知されているのですが、東京や関西、福岡にも出店している一方で、まだ皆さんに知られておらず、認知が低いという課題がありました。こういったIP、漫画とのコラボをすることで、20〜30代の若年層にもブロンコビリーを知ってもらい、ご来店していただいて、ブロンコビリーのおいしさや楽しさを感じていただきたい。そして、ファンになっていただけたら嬉しいという思いで、この企画を実施しました」
若年層への認知拡大と来店動機の創出。この二つを同時に狙った企画であることがわかる。
4.なぜ北綾瀬店なのか? 「全国」と「聖地」を使い分ける
今回、ブロンコビリーは全国の店舗でキャンペーンを展開する一方、店舗の看板を「BRONCO BOBBY」仕様に変更したのは北綾瀬店のみだ。
北綾瀬が「旗艦店」として選ばれた理由は、明確だった。
「北綾瀬にした理由は、リーチとアクセスです。リーチについては人口です。アクセスについては、ブロンコビリーはロードサイド店に出店していますが、北綾瀬店は北綾瀬 駅から徒歩3分ほどで、かなりアクセスがよく、どのお客様にもご来店いただける店舗だからです」
東京メトロ千代田線・北綾瀬駅から徒歩約3分という立地は、車で訪れる従来のファミリー層だけでなく、電車で訪れる漫画ファン層の双方を受け入れやすい。全国=広げる場所、北綾瀬=体験してもらう場所、という役割分担が、このコラボの設計思想として見えてくる。

5.このコラボから、中小企業が学べること
「このような大規模なコラボレーションは、大企業だからできる」と感じる人もいるかもしれない。しかし、 上田さんの話からは、今回の企画のゴールが単なる話題づくりではないことがわかる。
「KPIとして持っているのは、客数アップです。今回のコラボキャンペーンは3か月間、11月30日までと、1クールでかなり長い期間になります。ちょうどシルバーウィークも始まるので、初動はだいぶよかったの ですが、こういったキャンペーンは長くなると、どうしても中だるみしてしまうことがあります。きちんとファン の方を飽きさせないコミュニケーションを取り、客数につなげることが目標です。あとは最初にお伝えした ように、『ブロンコビリー』という名前をきちんと知ってもらい、認知を上げたいというところもあります」 ターゲット設定についても、短期的な話題性だけでなく中長期的な視点があった。
「有名なキャラクターを借りる」ことが本質なのではなく、「すでに誰かが持っている好きや物語と、自分たちの商品をどう接続するか」という発想は、規模の大小を問わず、地域の店舗にも応用できる視点だろう。
6.コラボの成功は「バズったか」だけでは測れない
今回の反響を受け、今後も同様のIPコラボを続けていく予定はあるのだろうか。
「今の段階でお伝えできることはありません。まずは今回のキャンペーンを成功させ、その次にIPをどうしていくかは、これから策定していく段階です」
SNSでの拡散だけでなく、リアルな店舗体験、複数の接点を組み合わせている点も特徴的だ。今回の企画が本当に成果を上げたかどうかは、11月末までのキャンペーン期間を通じた来店数・新規客の獲得・再来店の推移を見て、初めて判断できるものになる。
7.取材を終えて:コミュビズあだちの視点
今回のコラボレーションは、単なる「人気漫画と飲食チェーンの企画」ではなかった。
作品の中の一場面に読者が気づき、それをSNSで話題にし、企業がその「気づき」を公式のコラボとして現実化する。そして100話という節目のタイミングで、北綾瀬という一つの店舗が、期間限定で漫画の世界そのものになった。
上田さんの話からは、「IPコラボ」をしたではなく、「ファンがすでに持っている物語や気持ちに、企業がどう寄り添うか」を丁寧に設計していた様子がうかがえた。
そしてこの企画の舞台の一つが、足立区・北綾瀬であったこと。人口とアクセスという合理的な理由の先に、駅から徒歩3分という立地に多くのファンが集まり、実際に店舗の前で写真を撮る光景が生まれた。地域の一店舗が、全国のファンにとっての「聖地」になり得ることを示した事例として、足立区の地域ビジネスにとっても興味深い取材となった。

